梅雨が明けると、いよいよ本格的なツーリングシーズンの到来です。しかし、近年の日本の夏は「猛暑」を超えて「酷暑」とも呼べる厳しさになっています。アスファルトの照り返しは40度を超え、ライダー自身が熱中症のリスクにさらされるのと同様に、バイクのエンジンもまた、悲鳴を上げやすい環境に置かれます。
特に渋滞路や低速走行が続くと、エンジンは走行風を受けられず、冷却機能が追いつかなくなります。人間で言うところの脱水症状に近い「熱ダレ」を起こす前に、夏仕様のメンテナンスと正しい知識で愛車を守りましょう。
高温多湿な日本の夏とエンジンの「熱ダレ」症状
「熱ダレ」とは、エンジンの温度が上がりすぎた結果、本来の性能を発揮できなくなる現象を指します。オーバーヒート(沸騰・焼き付き)の一歩手前とも言える状態で、主な原因はエンジンオイルが高温になりすぎてサラサラになり、油膜を保持できなくなる(潤滑性能が低下する)ことにあります。
愛車からのSOSサインを見逃さないでください。わかりやすい症状としては、「アクセルを開けてもパワー感がなく、加速が鈍い」「ギアの入りが渋くなり、ニュートラルに入りにくくなる」「カチカチ、ガラガラといったメカノイズ(金属音)が大きくなる」などが挙げられます。これらを感じたら、エンジンはすでに限界に近い状態です。無理に走らせず、日陰でエンジンを停止し、十分に冷やす休息が必要です。
夏場に適した「オイル粘度」と交換タイミング
熱ダレを未然に防ぐ最も有効な手段は、エンジンオイルの管理です。メーカー推奨の交換時期は距離や期間で指定されていますが、夏を迎える前(6月〜7月頃)には、距離に達していなくても交換しておくことを強くおすすめします。新しいオイルは添加剤の働きが活発で、熱に対する抵抗力が高いからです。
また、オイルの「粘度(硬さ)」選びも重要です。例えば、普段「10W-40」という粘度指定のバイクであれば、夏場だけは後ろの数字(高温時の粘度)を上げた「10W-50」等のオイルを選ぶのも一つの手です。高温になっても油膜切れを起こしにくく、エンジンの保護性能が高まります。さらに、ベースオイルの種類も、耐熱性に優れた「化学合成油(全合成油)」を選ぶとより安心です。鉱物油に比べて価格は上がりますが、夏の過酷な環境下での安心料と考えれば、決して高い投資ではありません。
空冷エンジン・大排気量車が特に気をつけるべき点
特に注意が必要なのが、走行風だけで冷却を行う「空冷エンジン」のバイクや、発熱量が大きい「大排気量車」です。水冷エンジンのようにラジエーターファンが回って強制的に冷やす機能がない(または弱い)ため、渋滞にハマると逃げ場がありません。
このタイプのバイクに乗る場合、メンテナンスだけでなく「運用方法」での対策も不可欠です。日中の最も暑い時間帯の市街地走行は避ける、渋滞が予想されるルートは選ばない、といった計画性が求められます。信号待ちが続くような状況では、エンジン温度はぐんぐん上昇します。「エンジンが熱いな」と感じたら、無理せずコンビニなどで休憩を取りましょう。人間と同様、こまめなクールダウンこそが、夏を安全に乗り切る秘訣なのです。